想定される修士論文研究の例(アプローチ次第で,人間生態システムコース・環境地理,実践環境科学コース,国際保全コースのいずれでも研究が可能です)(2014年4月)
大雪山国立公園の登山道侵食 ネパール・ヒマラヤの観光と環境 中央アジア,キルギス南部のエコツーリズム・ガイドブックの作成 ジオ多様性とワイン(地質,土壌,微気象とワインの関係) 海外研究のレビューとメタ解析によるアジア諸国の土地利用変化と持続性 ヒマラヤの永久凍土の下限高度と氷河湖 フィンランドの国立公園の環境問題と公園管理 北海道のジオパークにおけるジオツーリズムの展開 北海道のジオ多様性と農作物・水産物の地産地消からみた地域の持続性
受験生によく聞かれる質問(2014年4月)
- 修士論文研究に必要な旅費は? ケースバイケースです。教員のプロジェクトに参加する場合には,多くの場合プロジェクトから支払われます。滞在先が北大と協定している海外の大学をベースに調査をするのであれば,滞在費用がほとんどかからないこともあります。海外の場合は,行き先によっては必要経費の一部に対して助成金申請が可能なこともあります。北海道内のフィールドではそれほど大きなお金はかからないでしょうけれども,アルバイトをして資金を集めるケースもあります。
- ごく最近のおもな就職先は? 修士修了生:JTB, 国際興業,株式会社ベネシス,厦門龍盛堂人材資源有限会社,札幌市,JTB 博士修了生:独立行政法人日本原子力研究開発機構,三重大学
中国から研究生への出願をお考えの皆さんへ(2018年2月22日)
最近,中国から研究生として受け入れて欲しいという問い合わせが,1年間に50件ほど来るようになりました。とても嬉しいことで,ぜひ多くの人にここで勉強をして欲しいと思います。しかし,研究生の問い合わせをする前に,ぜひ次のお願いを読んでください。
受験生がひじょうに多いので,特別な事情がなければ研究生はしばらくの間はの受入れません。修士課程に入学したい人は,直接,修士課程の入学試験を受けてください。もしも入学試験に合格できなかった場合は,研究生としてお引き受けする可能性はありますが,その可能性も小さいと思ってください。
なお,研究生は大学院進学の準備のための制度ではありません。研究生になったら研究をしていただく必要が生じます。したがって,受験勉強をしながら研究もしなければなりません。研究成果がなければ入学試験には合格できません。
また,大学院は,単に日本が好きとか,日本に興味があるとか,日本に滞在したい,日本の大学院の修了証書が欲しというだけで来るところではありません。修士号は簡単には取れません。本当に研究をしたい人に受験して欲しいと思っています。基本的には,修士課程修了後に博士課程に進学し,研究者になりたい人を優先します。
大学で日本語を勉強しても,科学の知識は高校生と同じです。本当に大学院で環境科学を勉強したいのなら,(1)環境科学,地理学,生物学,農学などの学部で4年間勉強をして,そこを卒業してから大学院を受験するか,(2)日本語を勉強しながら自分で学部レベルの勉強をしてきちんと基礎学力をつけてから大学院を受験するのが当然だと思います。ところが,中国の大学で日本語を勉強した学生の多くは,日本語ができるから何でもできると勘違いをしています。もしそうなら,すべての日本人が大学院に入学できることになります。でも現実は違います。中国人受験生も同じことです。
日本での調査をお考えの場合は,きわめて高い日本語能力が要求されます。日常会話が十分できる程度では,難しい研究の議論はできませんし,日本語の論文を読み込むこともできないでしょう。「文系の大学院に進学するには非常に高度な日本語能力が必要だけど環境環科学ではあまり必要ないだろう」などと間違えないでください。
海外で調査をお考えの場合は、日本語能力は問いません。ただ調査地域が日本でも海外でも高い英語能力が必要になります。いずれの場合も英語で書かれた論文が理解できなければなりませんし、通常、セミナーでの多くの議論も英語で行われます。ですから英語で研究上の議論ができなければ、入学しても研究をすすめることはできません。
中国のトップクラスの大学院では,研究費が潤沢にあり,大学院生の生活や研究費が保証されていることが多いようですが,日本の大学院は財政的に厳しい状況にあります。私の研究室も同じです。フィールドでの研究を希望する人が多いですが,そのためには自分でお金を準備する必要があることもきちんと理解しておいてください。
最後に,皆さんが日本語を一生懸命に便利してくださることはとても嬉しいことです。しかし,繰り返しますが,私の研究室では,特定の研究テーマを除くと日本語ができても入学にはほとんど意味がありません。英語ができない人は入学後に研究を続けることができません。英語ができない人が入学試験に合格できる可能性はほとんどありませんので,英語の勉強もしっかりとしてください。
人間・生態システムコース「環境地理学」の受験にあたって(2012年4月)
「環境地理学」的なアプローチには,地理学の基礎を入学前につけておくことが重要です。学部段階で(高等学校段階でも)地理学を勉強したことがない皆さんの中には,受験を躊躇する人がいるかもしれません。でも心配はいりません。在籍している先輩たちは,必ずしも学部で地理学を専攻してきた人たちではありません(実際に,地理学部出身者はごく少数です)。
入学試験科目では地理学を選択することができます。これまでに地理学を勉強したことがない皆さんも,ぜひ地理学の勉強をして,受験時に地理学を選択してみてください(もちろん,そのほかの科目を選択しても,合否判定で不利になることはありません)。
地理学の受験には,下記の図書を勉強しておいてください。
高橋日出男・小泉武栄編著『地理学基礎シリーズ2,自然地理学概論』朝倉書店,ISBN 978-4-254-16817-4
英語で勉強したい方には,次の教科書があります。
Hess, D. and Tasa, D. (2010): McKnight's Physical Geography: A Landscape Appreciation. Pearson; International ed of 10th revised ed., Prentice Hall. ISBN-10: 0321701720, ISBN-13: 978-0321701725.
また,地理学の受験にあたっては,2万5千分の1地形図と5万分の1地形図にも慣れ親しんでおいてください。
受験に関して心配事がある方は,気軽にメールをください。twataを@ees.hokudai.ac.jpの前につけてください。
大学院修士課程を受験する前に:大学院ってどんなところ?(2005年8月)
最近,受験をしたいという方々から,「大学院で,たくさん勉強をしたいんです」という言葉をよく聞くようになりました。実は,「たくさん勉強をしたい」と考えている多くの皆さんに,共通項があることがわかってきました。学部の時と同じように,大学院でもたくさん講義と実習があって,教室・実験室に行けば知識や技術が身に付くと「勘違い」をしている人が増えているように思えるのです。これは完璧に「勘違い」です。大学院はそういうところではありません。
確かに,私が通ったアメリカの大学院(といっても2校しか知りませんが)では,博士課程でさえ最初の2年間は,昼間は講義と実習,夜は宿題の繰り返しでした。しかし,私たちのコースの修士課程に入っていただいても,講義・実習が次々と開かれて,だまって座っていれば知識が入ってくるというわけではありません。ここが,学部での教育とは根本的に違うところです。
「たくさん勉強をしたい」と講義や実習に期待を寄せて来る学生さんたちは,入学後に,あまりに修士論文研究の比重が高いことに驚き,「こんなはずではなかった」と期待と現実のギャップに呆然とします。もちろん全員ではなく,かなりの割合の学生さんがそうだということです。
講義や基礎的な実習はもちろん準備されています。しかし,2年間の在籍期間の中で,一番大きな比重を占めるのは,やはり修士論文研究なのです。修士論文研究に没頭できなければ,大学院での2年間は,つらいものになると言わざるを得ません。
地球環境問題を広く勉強し,さまざまなことを身につけたいという気持ちを持っているとしたら,すばらしいことです。その気持ちはぜひ持ち続けていただきたいのですが,地球環境に関する書物は,本屋に行けば簡単に手に入ります。大学院は,こうした内容のことを「解説」する場所ではないのです。自分でできることは自分ですれば良く,広い知識を得たいだけなら,何も高い授業料を払って大学院に来る必要はありません。どうぞ好きなだけ本を買って読んでください。ここは,むしろ本には書いてないことや,自分一人では学ぶことができないことを身につける場なのです。
修士論文研究では,ある一つのテーマについての研究を行います。「ある特定のテーマしか研究できないなら,なぜ地球環境などという看板を掲げているのか?」と思うのでしたらば,それは間違っています。修士論文研究を通して学べることは,将来,他の問題に取り組むにあたって,重要な基礎となるはずです。問題発掘能力や,論理的思考能力,問題解決のための手段,データの取り方・まとめ方,プレゼンテーションの仕方,報告書のまとめ方・・・こうした一連のトレーニングは,将来,さまざまな地球環境問題に取り組むにあたって必須の「武器」となるのです。さらに言えば,ここで行われる一連のトレーニングは,研究とは無関係な,ほとんどの企業においてさえ役立つと確信しています。